ゴールドマン・サックス(GS)は16日、2018年のトレード戦略を発表しました。世界同時好景気を背景に新興国重視の姿勢をより鮮明にしたほか、FRBが来年4回の利上げを実施することを見込んで米国債売りを推奨しています。
4つの基本的見解
GSは戦略の前提として、4つの基本的な経済見通しを挙げています。
1. 世界経済の同時拡大
2018年と2019年の世界経済はともに4%の成長となり、コンセンサスに対してポジティブサプライズとなる。
2. 低い景気後退リスク
過去の例では、中央銀行はインフレリスクが顕在化したときに利上げに積極的になっている。先進諸国では現在、インフレは低く、期待インフレも抑制されているので、中央銀行が景気後退を引き起こすリスクはほとんどない。
3. 一時的な急落に注意
力強い成長が見込まれるとはいえ、バリュエーションが高いことを踏まえると、一時的な株価の急落リスクは無視できない。2018年には1)賃金上昇による企業収益の圧迫、2)QEの縮小による金利の再評価、という2つのリスクが顕在化し、その影響で市場心理が冷やされるかもしれない。
4. 新興市場は成長の余地を残す
先進諸国で潜在成長率を上回る成長が続いており、こうした期間にはほとんどの新興国でさらに成長を高める余地を残している。
2018年版7つのトレード戦略
GSは4つの基本的な経済見通しを踏まえて、7つのトレード戦略を推奨しています。
1. 米国債の売り
市場は2018年末の米10年債利回りを現在よりわずか20bps程度上回る2.5%と予想しているが、GSは3.0%と予想する。理由は2つで、まずECBの量的緩和とBOJのマイナス金利が米金利のイールドカーブをフラット化しているが、労働市場の改善余地がほとんど残っていない現状を踏まえると、米金融市場はFRBが心地よいと感じるレベルよりも過度に緩和的である。この結果、FRBは現在市場が織り込んでいる以上の回数の利上げを実施するだろう。
もう1つは、タームプレミアムの正常化だ。タームプレミアムは例外的な低水準にあるが、BS縮小でFRBがロールオーバーする国債の額が減り、その一方で米国債の発行額は増える。正常化の動きは、特に年後半に顕在化するだろう。
2. ユーロ円をロング
世界経済は同時に拡大するとしても、為替レートの動きはさまざまだ。
今後数カ月でユーロドルは1ユーロ=1.20ドル、ドル円は1ドル=120円になると予想する。したがって、目標価格は1ユーロ=140円となる。
2017年のユーロ上昇は“ショートカバー”が主導した。ユーロ圏では成長率が上向き、域内の政治リスクが好転したことから、ECBは域内からの資本流出を気にするようになり、テーパリングによる正常化へと向かった。
こうした状況から、投資家はユーロをショートすることはもはや適切ではないと考えており、ユーロドルの適正価格は1.30ドルだと推定されている。投機筋の先物ポジションは9億ドルのショートから、12億ドルのロングへと転換しており、投資家のポジションが弱気から抜け出したことの直接的な証拠となっている。
ただし、債券ファンドはまだドルをロングしており、為替マネジャーもまだユーロをアンダーウェイトしている。資金がシフトする余地はまだ残されており、こうした資金シフトがユーロを押し上げるはずだ。
これと正反対なのが円だ。日銀のイールド・カーブ・コントロール(YCC)により、ドル円は米長期国債利回りと強い相関を持つようになった。総選挙で安倍内閣が勝利したことで、YCCはしばらく続くことになり、その一方で世界景気の全般的な回復が世界的にイールドカーブを押し上げることから、ドル円はさらに上昇することになるだろう。
3. 新興国株価指数をロング
2018年も世界で同時かつ力強い成長が続くと予想しているが、新興国での成長余力が大きいことから、新興国の株式がアウトパフォームすることになるだろう。
ただ、バリュエーションは既に割高となっていることから、調整リスクは小さくないのだが、米株と比べると相対的な割高感が薄れる点が魅力だ。
また、新興国への資金流入は依然として過去平均を下回っているので、新興国が“買われ過ぎている”わけではない。
4. ユーロ建て5年先-5年物フォワード・インフレ・スワップをロング
現状のユーロ圏のインフレ・リスク・プレミアムは3つの理由から過小であると判断する。
まず、インフレリスクは過度に抑制された状況にあり、リスクプレミアムは2011年以降で最低の水準にある。
次に、市場は1%以下のインフレ率が今後5年間続くと予想しており、ECBはこの予想を押し上げるために、緩和的な政策を維持する必要がある。緩和的な政策が経済を活性化し、インフレリスクを高めるだろう。
最後に、量的緩和が期待インフレ率を押し下げてきたが、FRBがBS縮小を開始し、ECBがテーパリングを開始することで長期金利が上昇し、それに伴って期待インフレ率も上昇するだろう。
5. 新興市場債券をロング、米高利回り債をショート
米国の景気サイクルは新興国より先行しており、新興国の債券は米高利回り債に比べると相対的な魅力が大きい。
新興国では経済ファンダメンタルズの改善にともない、経常赤字が縮小し、インフレ率も低下、外貨準備が増加していることから、近い将来ドル不足に陥るリスクは非常に小さいだろう。
また、米景気は景気サイクルの成熟期に入っているが、新興国でのサイクルはまだ“若い”。したがって、米国ではそろそろ企業利益に陰りが見え始めるかもしれず、米高利回り債は新興国債よりもリスクが高いだろう。
6. アジアの成長国通貨をロング、低金利通貨をショート
世界的な景気拡大が見込まれる中、インド・ルピー、インドネシア・ルピア、韓国ウォンはそれぞれの独自要因から分散効果が期待できる。
資源の輸出国であるインドネシアと輸入国であるインドと韓国を組み合わせることで、商品(コモディティ)価格の変動に対するヘッジにもなる。
インドでは国有銀行が再編され、不良債権の処理で財務状況や信用格付けが改善している。物品・サービス税(GST)導入の影響も薄れることから、2018年のGDP成長率は7.6%と2017年の6.2%から大きく上昇することになるだろう。また、2019年上半期までに3回の利上げが実施される見通しで、インドへの資金流入によるルピーの押し上げが期待できる。
2018年のインドネシアの成長率は5.8%と2017年の5.2%から加速する見通しだ。インドネシアは現在、金融を緩和しているが、2018年後半に50bpsの利上げがあると見込んでいる。インドと同様に、インドネシアでも外貨準備が積みあがっており、現在は過去最大の水準にある。この外貨準備が通貨の変動を抑える役割を果たすだろう。
韓国では、メモリー・チップの上昇サイクルが少なくとも2018年上半期までは続くことを背景に輸出主導の成長が期待できる。その一方で、2018年末までに3回の利上げが実施される見通しであり、韓国への資金流入がウォンを押し上げるとみている。
資金調達は金利の低いシンガーポール・ドルと円でするのが妥当だ。加えて、円での調達は金利が安いのみならず、ドル金利の上昇で円安が見込まれることから、円ショート自体からの利益も期待できる。
7. 南米の資源通貨をロング、米ドルをショート
世界経済の拡大により、工業用の非鉄金属価格の上昇が続くことが期待できることから、チリペソ、ブラジルレアル、ペルーソルをロングし、ドルをショートするのがお勧めだ。
チリは銅が有名であり、ブラジルとペルーでは多様な金属が採掘されている。また、ブラジルを中心とした南米経済の回復もこの3通貨を推す理由である。
新興国に重点シフト、引き続きインフレを警戒
2017年と比べると、昨年はドル全面高を訴えていましたが、今年はむしろドル売りを推奨しています。昨年の見通しではユーロドルはパリティまで下落すると豪語していましたが、今年は一転してユーロ高を支持しています。また、昨年はドル買い人民元売りを推奨していましたが、結果がまったく逆であったからか、今年は言及そのものがありませんでした。
2018年は世界経済の同時拡大を見込む中で、米国を外して新興国とコモディティに重点を置いているようです。米国の景気サイクルは既に“成熟期”に入ったとみており、その一方でFRBが積極的に利上げを進めることから米国にはあまり魅力を感じていないようです。
世界経済の同時拡大の恩恵を最も受けるのが新興国と非鉄金属と見立てから、新興国の株式と通貨に焦点を当て、その中から有望なトレードをピックアップしている印象です。
また、インフレリスクの指摘は昨年から続いており、“今年こそ”の重いが見え隠れしています。
